「遺品整理を自分でやるなら、何から手をつければいいのだろう」。費用を抑えたい一方で、捨ててはいけない物を見落とさないか、親族ともめずに進められるのか、不安が先に立つこともあるでしょう。遠方の実家に週末だけ通う場合は、いつ終わるのか見通しが立たないという迷いも重なります。
そこで本記事では、始める前に確かめる4つのことと、貴重品探しから運び出しまでの5つの手順を順番に整理します。自治体のルールに沿った処分の仕方もわかるので、次の週末に何をするかを具体的に決められるはずです。
あわせて、業者に頼むかどうかの分かれ目や、仏壇・写真など扱いに迷う物の考え方も同じ流れで紹介します。
遺品整理を自分でやるか業者に頼むかの分かれ目
遺品整理は、実家に通える距離と作業の時間があり、明け渡しの期限に余裕があれば、家族だけでも十分に進められるでしょう。重い家具の運び出しや期限の近い部屋だけ業者の手を借り、仕分けは自分たちでする組み合わせも選べます。
状況ごとの進め方の目安は次のとおりです。
| 状況 | 向いている進め方 |
|---|---|
| 通える距離と時間に余裕がある | 家族だけで進める |
| 大型家具や大量のごみがある | 仕分けは家族、搬出は業者 |
| 明け渡しの期限が近い | 業者に任せる |
| 発見までに日数がたった部屋 | 特殊清掃を業者に頼む |
通える距離と時間があれば自分でできる
週末ごとに実家へ通え、数か月かけて片付けられるなら、遺品整理は家族だけで進められます。遺品整理事業者の林商会が2024年7〜9月に遺品整理の経験がある20代以上の200人へインターネットで行った調査では、「自分と親族数人」で片付けた人が80%でした。
同じ調査で、業者を使わなかった人の43.1%は費用が1万円以下でした。自分たちで仕分ければ、通帳や権利証などの見落としも防ぎやすいでしょう。
一方で、苦労した点には実家までの移動時間や、階段での上げ下ろしといった体力面が挙がっています。通える回数と、手伝ってくれる人数を先に見積もっておきましょう。
重い物の搬出だけ業者に頼む方法もある
仕分けと貴重品探しは自分たちで行い、重い家具の運び出しや大量のごみだけを業者に頼む方法もあります。国民生活センターも、業者に頼む前に、残す遺品と処分する遺品を明確に分けておくよう勧めています。
費用を抑えたいなら、市区町村の処理施設へごみを自分で運ぶ「自己搬入」も選択肢です。総務省の調査報告(2020年)には、依頼者の同乗を条件に業者の搬入を認めている市町村で、依頼者が処理手数料を自分で払った例が紹介されています。できるかどうかは自治体に確かめましょう。
頼む作業を絞るほど、業者に払う費用は抑えやすくなります。どこまでを自分でやるかを決めてから見積もりを取りましょう。
期限が近い部屋や特殊清掃は業者に任せる
明け渡しの期限が近い部屋や、亡くなってから発見までに日数がたった部屋は、業者に任せたほうが安心です。公営住宅のように、片付けの期限が短く決められている住まいもあります。
発見までに日数がたった部屋は、においや汚れを取り除く特殊清掃が必要になることがあり、家族だけでの作業は負担が大きくなりがちです。業者に頼んだ場合の費用は、総務省が集めた見積書75例では、10万円を超え40万円以下の見積額が54例と多くを占めていました。
業者を選ぶときは、複数社から見積もりを取り、作業内容と追加料金の条件を書面で確かめましょう。間取りごとの費用の目安は「遺品整理費用の相場は間取り別でいくら?内訳と安く抑えるコツ」で紹介しています。
遺品整理は業者による料金差・サービス差が大きい分野です。悪質業者を避けるための7つの基準を、チェックリスト付きで解説しています。
自分で片付ける前に確かめる4つのこと
片付けを始める前に、相続放棄をするかどうか、遺言書の有無、部屋の明け渡し期限、相続人全員の同意の4つを確かめておきます。順番を誤ると、あとから手続きや親族との話し合いでつまずくことがあります。
片付けと並行して進める手続きの期限を、次の表にまとめました。
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 相続の開始を知った時から3か月以内 |
| 準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 |
| 相続税の申告 | 死亡を知った日の翌日から10か月以内 |
| 相続登記 | 不動産の取得を知った日から3年以内 |
相続税の申告は、遺産が基礎控除を超える場合だけ必要です。片付けを急ぐ理由になるのは、主に相続放棄の判断と部屋の明け渡し期限です。
相続放棄を考えるなら売る・捨てる前に相談
亡くなった人に借金があるなどで相続放棄を考えているなら、遺品を売ったり捨てたりする前に、弁護士や司法書士に相談しましょう。民法では、相続人が相続財産を「処分」すると、相続を認めた(単純承認)とみなされます。
経済的な価値の低い思い出の品を分ける程度なら処分に当たらないとした裁判例もありますが、判断は分かれています。放棄を考えている間は、生ものを片付けるなど傷みを防ぐ作業にとどめ、迷う物には手を付けないでおきましょう。
財産を調べるのに3か月で足りないときは、家庭裁判所に期間を延ばす申し立てもできます。迷ったら、まず期限を確かめましょう。
遺言書を見つけても封は開けない
遺言書を見つけたら、封があってもなくてもそのまま家庭裁判所に出して、「検認」という手続きを受けます。封じ目に印が押された遺言書を家庭裁判所の外で開けると、5万円以下の過料の対象になります。過料は刑罰ではなく、行政上のお金の制裁です。
検認は、遺言書の偽造や書き換えを防ぐための手続きで、遺言が有効かどうかを決めるものではありません。公正証書遺言と、法務局に預けられていた自筆証書遺言は、検認が要りません。
遺言書は、仏壇の引き出しや金庫、書類箱などにしまわれていることがあります。片付けを始める前に、親族と一緒に探しておきましょう。
賃貸や公営住宅は明け渡しの期限を確認
親が賃貸住宅や公営住宅に住んでいた場合は、片付けより先に管理会社や管理窓口に連絡し、明け渡しの期限と家賃の扱いを決めておくことが先決です。民間の賃貸住宅では、借りていた部屋の権利(賃借権)と残った家財が相続人に引き継がれます。公営住宅は部屋を使う権利は引き継がれませんが、家財の片付けと返還の手続きは相続人が行います。
期限は住まいによってさまざまです。都営住宅の場合、名義人が一人暮らしで亡くなったら住宅返還届を出し、1か月半程度で部屋を片付けて鍵を返すよう案内されています。
持ち家でも、売却や解体の予定があれば、その日が実質の期限になります。期限から逆算して、通える週末の回数を数えておきましょう。
捨てる前に相続人全員の同意をとる
遺品は、遺産分割が終わるまで相続人全員の共有なので、捨てたり持ち帰ったりする前に全員の同意が必要です。民法では、分割の前に誰かが遺産を処分しても、ほかの相続人全員が同意すれば、その財産がまだあるものとして遺産を分けられると定めています。
つまり、一人で決めて処分すると、あとで精算を求められることもあります。処分する物は写真付きの一覧にして、メッセージなど記録が残る形で同意をもらっておくと、もめごとを防げるでしょう。
遺品整理を自分でやる5つの手順
遺品整理を自分でやるときは、道具と日程をそろえる、貴重品を探す、仕分ける、親族に確認する、運び出して掃除する、の5つの順番で進めます。貴重品探しを最初に終えておくと、誤って大事な物を捨てる心配はぐっと減るはずです。
道具と作業の日程をそろえる
作業を始める前に道具と日程をそろえておくと、当日に手が止まりません。主に使う道具は次のとおりです。
- 段ボール・ごみ袋・油性ペン
- 軍手・マスク・スリッパ
- ドライバーなどの工具・台車
- 保留用の箱と付箋
日程は、部屋ごとに「この週末はこの部屋」と割り当てると進み具合が見えます。夏は熱中症にも注意が要ります。消防庁によると、2025年5〜9月に熱中症で救急搬送された人の発生場所は住居が38.1%で最も多く、実家での作業中もエアコンと水分補給は欠かせません。
貴重品と重要書類を最初に探す
仕分けより先に、相続や手続きに必要な貴重品と書類を探し出します。一度ごみに混ざると、見つけ出すのが難しくなるためです。
| 探す物 | 主な使い道 |
|---|---|
| 通帳・キャッシュカード | 預金の相続手続き |
| 印鑑 | 各種の手続き |
| 権利証・登記識別情報 | 不動産の相続登記 |
| 保険証券 | 保険金の請求 |
| 年金手帳・年金証書 | 年金の手続き |
| 契約書・請求書 | 解約・支払いの確認 |
| スマホ・パソコン | 契約やネット口座の確認 |
見つけた物は1つの箱にまとめ、誰が預かるかを親族で決めておきましょう。手続きのたびに実家へ探しに戻る手間が省けるはずです。
残す・譲る・売る・処分・保留に分ける
貴重品を探し終えたら、遺品を「残す・譲る・売る・処分・保留」の5つの箱に分けていきます。迷った物を保留箱に入れて先に進むと、作業が止まりにくくなります。
仕分けは、一つひとつの物に思い出があるため時間がかかりやすい作業です。手が止まるのは自然なことでしょう。
保留箱は、次に来たときや親族が集まったときに見直せば大丈夫です。無理に一度で決めず、写真に撮ってから手放す方法もあります。
写真付きの一覧で親族に確認する
仕分けが進んだら、「譲る」「売る」「処分」に分けた物を写真付きの一覧にして、親族に確認してもらいましょう。遠方の親族も、スマホで写真を見ながら形見分けの希望を伝えられます。
国民生活センターには、業者に処分しないよう頼んだ物を勝手に処分されたという相談も寄せられました(2018年公表)。親族の確認を経てから運び出せば、家族の間でも業者との間でも、取り違えを防ぎやすくなります。
部屋ごとに運び出して最後に掃除する
運び出しは、部屋ごとに処分する物をまとめ、自治体の収集日や持ち込みの予約に合わせて進めましょう。全部の部屋を一度に散らかすより、1部屋ずつ空にしていくほうが進み具合がわかりやすくなります。
物がなくなったら床や水回りを掃除し、電気・ガス・水道を止める時期を決めます。賃貸や公営住宅なら、鍵の返却と立ち会いの日程も管理会社と確かめましょう。
遺品の処分方法と自治体のルール
遺品の処分は、自治体の収集や持ち込み、家電リサイクル、買取や譲渡を組み合わせて行います。ルールと料金は自治体ごとに違うため、まず親が住んでいた市区町村のページで確かめましょう。
物の種類ごとの主な処分先は次のとおりです。
| 物の種類 | 主な処分先 |
|---|---|
| 燃えるごみ・燃えないごみ | 自治体の収集 |
| 大きな家具・布団 | 粗大ごみ・持ち込み |
| エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機 | 家電リサイクル |
| パソコン | メーカー・パソコン3R推進協会 |
| スマホ・小型家電 | 自治体の回収ボックスなど |
| まだ使える物 | 買取・譲渡 |
粗大ごみと持ち込みの料金は自治体で違う
粗大ごみの手数料や、処理施設へ自分で運ぶ持ち込みの料金は、自治体によって大きく違います。たとえば持ち込みの手数料は、大阪市が10kgごとに90円、名古屋市が10kgごとに270円です(2026年10月時点)。
大阪市の粗大ごみは1点200〜1,000円の4区分で、たんすは大きさに応じて400〜1,000円です。名古屋市は2026年10月から、45リットルの指定袋に入らない物を粗大ごみとする基準に変わりました。
一度に大量のごみが出るときは、収集日に分けて出す、自分で持ち込む、市の許可業者に頼む、の3つから選べる自治体もあります。持ち込みには予約や車検証が必要な場合があるので、事前に確かめておきましょう。
家電4品目とパソコンは粗大ごみに出せない
エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機の4品目は家電リサイクル法の対象で、粗大ごみには出せません。引き渡すときは、リサイクル料金と収集運搬料金がかかります。
リサイクル料金はメーカーや大きさで異なるため、家電リサイクル券センターの料金表で確かめましょう。パソコンは、PCリサイクルマークが付いていればメーカーが無料で回収し、マークがなければメーカーに回収料金を払って回収してもらいます。自作のパソコンやメーカーが無くなったパソコンは、パソコン3R推進協会が回収します。どちらも、手放す前にデータを消しておくことが大切です。
スマホやデジカメなどの小型家電は、市区町村の回収ボックスなどで回収されます。中の電池は壊れると発火するおそれがあるので、ほかのごみに混ぜないようにしましょう。
家庭ごみを回収できるのは許可業者だけ
家庭から出たごみを回収できるのは、市区町村の一般廃棄物処理業の許可を持つ業者か、市区町村から委託を受けた業者だけです。環境省は、産業廃棄物処理業や古物商の許可だけでは家庭のごみは回収できないと注意を呼びかけています。
無許可の回収業者による不法投棄や高額請求の事例も、実際に報告されてきました。環境省は、大音量で巡回する業者やチラシ・ネット広告で集客する業者を、無許可業者によくある例として挙げています。頼む前に、自治体の許可があるかを確かめましょう。
まだ使える物は買取や譲渡に回す
家具や家電、着物、貴金属などでまだ使える物は、買取や譲渡に回すと、処分の手間と費用を減らせます。買取を頼むのは、古物商の許可を持つ店にしましょう。
相続放棄を考えている場合は、売る前に専門家へ相談する点も忘れないでください。売り先の選び方や相続・税金の注意点は「遺品整理の買取はどこに頼む?売り先5つの選び方と相続・税金の注意」で紹介しています。
仏壇や写真など扱いに迷う物の考え方
仏壇や神棚、写真や手紙のように気持ちの面で手放しにくい物は、急いで処分せず、お寺や神社に相談したり、残し方を工夫したりして決めます。宗教や宗派によって考え方が違うため、家の信仰に合わせて選びましょう。
仏壇や位牌は菩提寺に相談してから
仏壇や位牌を手放すときは、まず菩提寺(家が付き合いのあるお寺)に相談します。多くの宗派では、手放す前に閉眼の法要をお寺に頼むことが多く、法律上の決まりではありませんが、家族の気持ちの区切りにもなるでしょう。
浄土真宗では、ご本尊に魂を入れたり抜いたりするという考え方をとらないと、真宗大谷派は説明しています。宗派ごとの作法は、お付き合いのあるお寺に確かめてください。
仏壇や位牌は、お墓と同じく祭祀を受け継ぐ人が引き継ぐものとされ、ほかの遺産とは分けて考えます。誰が受け継ぐかも、親族と話しておきましょう。
神棚とお神札は神社に納める
神棚のお神札は、受けた神社や近くの神社に納め、お焚き上げしてもらうのが一般的です。神社本庁は、遠方で納めに行くのが難しいときは、近くの神社にお焚き上げを頼めるか問い合わせるよう案内しています。
身内が亡くなったときは、神棚に報告したうえで白い半紙を貼り、しばらくおまつりを控えるのが習わしです。地域の慣例がなければ、五十日祭を過ぎるとおまつりを再開して差し支えないとされています。神棚そのものの扱いも、お神札を受けた神社に相談すると安心です。
写真・手紙・スマホは急いで処分しない
写真や手紙、日記は、量が多くても急いで捨てず、親族に見てもらってから選ぶと後悔が少ないでしょう。残したい写真はスキャンしてデータにすると、場所をとらずに家族で分け合えます。
スマホやパソコンは、初期化や処分をする前に、契約中のサービスやネット銀行の手がかりを確かめてください。国民生活センターにも、故人のスマホが開けず、契約の確認や解約に困ったという相談が寄せられています。手順は「デジタル終活は何から?4つの手順とパスワードを安全に残す方法」が参考になります。
遺品整理を自分でやるときのよくある質問
始める時期やかかる期間、形見分けと相続放棄の関係、片付けた後の実家について、よく出る疑問をまとめました。
遺品整理はいつから始めればよいですか
決まりはありませんが、葬儀の後や四十九日の後に始める人が多いようです。林商会の調査では、葬儀後すぐに始めた人が35.5%、四十九日後すぐが22.5%でした。明け渡しや相続放棄の判断に期限がある場合は、その日から逆算して始めましょう。
自分でやるとどのくらいの期間がかかりますか
家の広さや物の量、通える回数で大きく変わります。林商会の調査では、かかった時間は「1週間超〜1か月以内」が22%で最も多く、1週間以内の17.5%と合わせて約4割が1か月以内に終えていました。一方で「数年以上」も11.5%いました。期限がなければ、保留箱を使って何回かに分けて進めても構いません。
形見分けは相続放棄に影響しますか
経済的な価値の低い思い出の品を分ける程度なら、相続財産の処分に当たらないとした裁判例があります。ただし価値のある物を持ち帰ると、相続を認めたとみなされるおそれもあります。相続放棄を考えているなら、形見分けの前に弁護士や司法書士に相談しましょう。
片付けた後の実家はどうすればよいですか
空き家のまま置かず、住む・貸す・売るのどれにするかを早めに決めましょう。相続した実家を売る場合、相続開始から3年目の年末までに売ることなどの要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける特例があり、2026年10月時点では2027年12月31日までの売却が対象です。相続登記も、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に申請します。
まとめ
遺品整理を自分でやるときは、相続放棄・遺言書・明け渡しの期限・親族の同意の4つを確かめてから、貴重品探し、仕分け、親族への確認、運び出しの順で進めます。処分は自治体のルールに沿い、回収は許可業者に頼みましょう。
まずは次の週末、通帳や権利証などの重要書類を探すところから始めましょう。搬出を任せる業者の選び方は、次の記事で確かめられます。
遺品整理は業者による料金差・サービス差が大きい分野です。悪質業者を避けるための7つの基準を、チェックリスト付きで解説しています。