「終活はいつから始めればいいのだろう」。定年が近づいたり、親の介護が始まったりすると、まだ早いのか、もう遅いのか、基準がわからず迷うこともあるでしょう。何から手をつければよいかも見えないまま、気持ちばかりが焦ってしまうという迷いも重なります。
そこで本記事では、終活を始める年齢の目安を、判断力・体力・生活の節目という3つの根拠から整理します。認知症の割合や健康寿命といった公的なデータをもとに、自分の年代でいま何をすればよいかを判断できるはずです。
あわせて、判断力があるうちに済ませたい手続きや、親に終活を勧めるタイミングも同じ流れで紹介します。
終活は何歳から始めるのがよいか
終活に「何歳から」という決まりはなく、判断力と体力があるうちなら、いつ始めても早すぎることはありません。目安を置くなら、認知症や介護の割合が大きく上がる75歳より前、70代前半までに、判断が要ることを済ませておくと安心です。
年齢の決まりはなく判断力があるうちが条件
遺言は民法で15歳から作れると決まっていますが、終活全体には「何歳から始める」という決まりはありません。
その代わり、多くの手続きには、その時点で自分で判断できる力が必要です。この力を法律では「意思能力」と呼び、意思能力がない状態で結んだ契約などは無効になります。日本公証人連合会も、遺言は死期が近づいてからするものではなく、判断能力がなくなるとできなくなると説明しています。
終活の始めどきを決めるのは年齢ではなく、自分で考えて決められる力が十分にあるかどうかです。
認知症の割合は75歳を過ぎると大きく上がる
判断力の目安として認知症の年齢別の割合を見ると、65〜74歳では数%にとどまり、75歳を過ぎると大きく上がります。厚生労働省が公表した2022年時点の推計は次のとおりです。
| 年齢 | 認知症 | MCI |
|---|---|---|
| 65〜69歳 | 1.1% | 6.9% |
| 70〜74歳 | 3.1% | 約9% |
| 75〜79歳 | 7.1% | 16.5% |
| 80〜84歳 | 16.6% | 22.6% |
| 85〜89歳 | 32.8% | 27.5% |
推計は九州大学の研究班が4つの地域で行った調査をもとにしています。MCI(軽度認知障害)は、もの忘れなどはあっても日常生活は自立していて、認知症とは診断されない状態のことです。
この段階では、周りが変化に気づかないこともあります。60代で焦る必要はありませんが、遺言やお墓の継ぎ手など判断が要ることは、75歳を迎える前に形にしておくと安心でしょう。
体力の目安になる健康寿命は72〜75歳
体力の目安になる健康寿命は、2022年で男性72.57年、女性75.45年でした。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく暮らせる期間の平均のことです。同じ年の平均寿命との差は男性8.49年、女性11.63年あり、この期間は何らかの制限を抱えて暮らす人が多くなります。
介護の面でも、内閣府の「令和8年版高齢社会白書」によると、要支援・要介護の認定を受けている人は2023年度に65〜74歳で合わせて4.4%、75〜84歳では17.5%でした。
片付けや住み替え、遠方のお墓の墓じまいのように体を動かす終活は、70代前半までを一つの目安に計画すると無理がありません。
終活を始めるきっかけになる節目
終活は年齢よりも、身近な人を見送ったときや定年、健康の不安といった生活の節目をきっかけに始めたいと考える人が多くいます。自分に節目が来たときを、始めどきと考えてよいでしょう。
50代は身近な人を見送ったことが多い
50代では、家族や大切な人を亡くしたことが終活のきっかけとして最も多くなっています。楽天インサイトが2024年1月に全国の20〜69歳の男女1,000人へインターネットで行った調査で、終活をしたいと答えた人にきっかけを聞くと、50代の1位は「家族や大切な人が亡くなったこと」(25.4%)でした。
同じ調査で、終活をしたい理由の1位は「家族に迷惑をかけたくない」(60.2%)です。葬儀やお墓、遺品の片付けで家族が決めることの多さを見送りの場で知り、自分のときは負担を減らしたいと考えるのは自然なことでしょう。
見送った直後は気持ちの整理を優先してかまいません。落ち着いてから、自分の希望を書き出すところから始めると無理がありません。
60代は健康の不安と定年がきっかけに
60代では、自分の健康に不安を感じたことが一番のきっかけです。同じ楽天インサイトの調査で、60代のきっかけは「自分の健康に不安を感じたこと」(28.2%)が最も多く、「定年を迎えたこと」(17.2%)が3位でした。
60代は、働き方と年金の受け取り方が決まる時期でもあります。会社には65歳までの雇用を確保する義務があり、年金は原則65歳から、希望すれば60〜75歳の間で受け取り始める時期を選べる仕組みです。
収入の見通しが立つと、葬儀やお墓にかけられる予算も考えやすくなります。定年や年金の手続きと一緒に、お金の終活を始めるのが自然な流れです。
親の介護が始まる40〜50代も節目
親の介護や相続が始まる40〜50代は、自分の終活と親の終活を同時に考えやすい時期です。40歳になると介護保険の被保険者になり、2025年4月からは、会社が40歳になる社員などに介護休業などの制度を個別に知らせる決まりになりました。
親の介護をきっかけに、通帳や保険証券の場所、お墓を誰が引き継ぐかを話す機会も増えます。そのとき自分自身のことも書き出しておけば、子の世代に同じ手間をかけずに済むはずです。
実家の相続登記は2027年3月末が期限
親から相続した実家や土地の名義を変えていない場合、原則として2027年3月31日までに相続登記をする必要があります。相続登記は2024年4月から義務になり、それより前に相続して名義を変えていない不動産も対象です。
法務省によると、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に登記するのが原則で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。過料は刑罰ではなく、行政上のお金の制裁です。遺産分割の話し合いがまとまらないときは、「相続人申告登記」という手続きで義務を果たす方法もあるので、法務局に相談するとよいでしょう。
親の代の名義が残ったままだと、子の世代の手続きがさらに複雑になります。自分の終活を始める前に、実家の名義を確かめておきましょう。
判断力があるうちに済ませたいこと
判断力がなくなったあとでは本人の意思で決められなくなるのが、遺言・任意後見契約・お墓の継ぎ手の指定・財産の整理の4つです。年齢に関係なく、思い立ったときに進めておくと家族の負担を減らせます。
4つの違いを表にまとめました。
| 済ませたいこと | 判断力がなくなったあと | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 遺言 | 作れない | 公証役場・専門家 |
| 任意後見契約 | 結べない | 公証役場 |
| お墓の継ぎ手の指定 | 慣習や話し合いで決まる | 家族・寺院・霊園 |
| 財産の一覧 | 家族が一から探す | エンディングノート |
遺言は判断力がなくなると作れない
遺言は、書くときに判断力がなければ作れません。民法は遺言をする時にその能力があることを求めており、日本公証人連合会は、遺言は満15歳以上ならいつでもでき、死期が近づいてからするものと考えるのは誤解だと説明しています。
遺言は、あとから書き直すこともできます。財産や家族の状況が変わったら新しい遺言を作ればよいので、まだ早いと感じる時期に作っても困ることはないでしょう。
両親のどちらかが先に亡くなり、残った親が認知症で意思を示せないと、その親を除いた遺産分割の話し合いは無効になります。親世代が元気なうちに遺言を残しておけば、こうした行き詰まりを防ぎやすくなります。
任意後見契約は元気なうちに結ぶ
任意後見契約は、判断力が十分にあるうちに、将来の財産の管理や介護サービスの契約を任せる人を自分で選んでおく契約です。公正証書で結び、判断力が不十分になったときに家庭裁判所が任意後見監督人という見守り役を選んでから、効力が生まれます。
判断力がなくなって本人が手続きできなくなると、家族が預金を解約したり実家を売ったりするには、成年後見の申し立てが必要になることがあります。最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」(2025年1〜12月)でも、申し立ての動機は「預貯金等の管理・解約」が93.4%で最も多くなっていました。
内閣府が2024年10〜11月に全国の60歳以上2,188人へ郵送などで行った調査では、認知機能が落ちたときの財産管理の相談を老後の備えに挙げた人は7.8%で、選択肢の中で最も少ない結果でした。任意後見なら、誰に任せるかを自分で決められます。子か専門家か、家族と話し合っておくとよいでしょう。
お墓の継ぎ手は本人が指定できる
お墓を誰が受け継ぐかは、本人が生前に指定できます。民法では、お墓や仏壇は祖先の祭祀を主宰する人が受け継ぎ、亡くなった人の指定があればその人が受け継ぐと定めています。この人が「祭祀承継者」です。
指定がないと地域の慣習に従って決まり、慣習がはっきりしないときは家庭裁判所が決めます。実際には家族の話し合いで決めることも多いでしょう。お墓を守り続けるか、墓じまいをして永代供養などに移すかも、継ぐ人の負担に関わる問題です。永代供養のうち、ほかの人の遺骨と一緒に納める合祀を選んだ場合は、一度合祀した遺骨は取り出せないため、親族とよく話し合ってから決めましょう。
費用の分担や供養の方法まで、家族と話しておくと安心です。墓じまいの流れは「墓じまいとは?8つの手順と費用」で紹介しています。
当サイトでは全国7,000件以上の霊園・墓地・永代供養・樹木葬・納骨堂の情報を、都道府県・市区町村別に掲載しています。費用の目安やアクセスから比較できます。
墓じまいを検討中の方:地域別の墓じまい費用・補助金
預金や不動産の一覧を家族に残す
預金口座や保険、不動産、ネット銀行などの一覧を判断力があるうちに作っておくと、家族が一から探す手間を省けます。通帳が届かないネット銀行や、名義を変えていない土地は、一覧がないと家族が存在に気づけないこともあります。
一覧に書くのは金融機関名と支店名、保険会社名、不動産の所在地などです。暗証番号やパスワードは書かず、保管場所だけを家族に伝えます。書き方は「エンディングノートに何を書く?8つの項目と葬儀・お墓の書き方」、スマホやネット口座の整理は「デジタル終活は何から?4つの手順とパスワードを安全に残す方法」が参考になります。
年代別に終活で始めること
年代別に見ると、50代は親の終活と情報集め、60代はお金・住まい・お墓の方針決め、70代前半までは判断が要ることの書面化、75歳からは見直しと引き継ぎが中心です。自分の年代から始め、前の年代でやり残したこともあわせて進めましょう。
年代ごとの中心と、重なりやすい節目は次のとおりです。
| 年代 | 中心になること | 重なりやすい節目 |
|---|---|---|
| 50代 | 親の終活・情報集め | 親の介護・相続 |
| 60代 | お金・住まい・お墓の方針 | 定年・年金 |
| 70代前半 | 遺言・任意後見の書面化 | 健康寿命 |
| 75歳から | 見直し・引き継ぎ | 免許の認知機能検査 |
50代は親の終活と情報集めから
50代は、自分の終活より先に、親の終活を手伝いながら情報を集める時期です。親の預金や保険、実家の名義、お墓の場所と管理の仕方を一緒に確かめておくと、のちの手続きで慌てずに済みます。
自分のことは、エンディングノートに家族の連絡先や持っている口座を書き出す程度で十分でしょう。50歳を過ぎると「ねんきん定期便」に老齢年金の見込額が載るので、老後のお金を考える材料にもなります。
健康づくりも終活の一部です。九州大学の研究班の報告書でも、生活習慣病などが中年期から認知症のなりやすさに関わる可能性を示した国内外の研究が紹介されています。
60代はお金・住まい・お墓の方針を決める
60代は、収入と年金の見通しをもとに、お金・住まい・お墓の大まかな方針を決める時期です。定年後の働き方や年金の受け取り開始時期が決まれば、葬儀やお墓にかけられる予算も見えてきます。
住まいについては、今の家に住み続けるか、住み替えるか、将来その家を誰が使うかを考えます。総務省の住宅・土地統計調査では、2023年10月時点の空き家は900万2千戸で過去最多でした。家の行き先を家族と話しておけば、空き家のまま残る心配を減らせます。
お墓は、今あるお墓を守るか、墓じまいをして別の供養先に移すか、新たに区画の使用権を取得するかを、家族の意見を聞きながら考えましょう。方針を決めたら、霊園や寺院を見学し、費用を比べてから決めると納得しやすくなります。
70代前半までに判断が要ることを書面に
70代前半までには、遺言・任意後見契約・お墓の継ぎ手の指定といった判断が要ることを書面に残しておくのが目安です。健康寿命や認知症の割合を見ても、この時期までは多くの人が自分で考えて決められる状態にあります。
遺言は、公証人が作成に関わる公正証書遺言にすると、形式の不備を防ぎやすくなります。日本公証人連合会によると、公正証書遺言は2025年に全国で123,891件作られました。
葬儀の形や供養の希望も、この時期にエンディングノートへ書いておきましょう。書いたら、家族に保管場所を伝えておくことも忘れずに。
75歳からは見直しと家族への引き継ぎ
75歳からは、新しく始めることより、これまでに決めたことを見直し、家族へ引き継ぐことが中心になります。75歳以上の人は運転免許の更新時に認知機能検査を受け、医療保険も後期高齢者医療制度に移るため、見直しのきっかけにしやすい年齢です。
見直すのは、遺言やエンディングノートの内容、口座や契約の一覧、お墓の継ぎ手です。財産や家族の状況が変わっていれば書き直し、保管場所を家族と改めて確かめます。
体力が落ちてきたら、家の片付けや手続きは家族や専門家の手を借りて進めてかまいません。遺品整理を業者に頼む場合も、元気なうちに見積もりを比べておくと安心です。
親に終活を勧めるタイミング
親に終活を勧めるなら、親が元気で判断力も十分な70代前半までに、日常の会話から少しずつ話し始めるのが目安です。「亡くなったあとの話」ではなく「これからを安心して過ごすための話」として切り出すと、受け入れてもらいやすくなります。
親が70代前半のうちに話し始める
親との話し合いは、親が70代前半のうちに始めると、本人の意思を確かめながら進められます。国土交通省が2024年11〜12月に空き家の所有者へ郵送などで行い、6,294世帯が答えた調査では、相続で空き家を受け継いだ世帯のうち、相続の前に話し合いなどの対策をしていたのは23.0%でした。
同じ調査では、相続前に対策をしなかった空き家は、対策をした空き家に比べて、そのまま空き家として持ち続けている割合が約1.5倍です。早めの話し合いが、家の行き先を決める助けになるといえます。
日常の会話や法事をきっかけにする
改まって切り出すより、日常の会話や親族の法事、ニュースなどをきっかけにすると話しやすくなります。東京海上日動火災保険が2025年11月に20〜60代の1,030人へインターネットで行った調査では、3年以内に親を看取った515人の33.6%が、生前の話し合いが足りなかったと後悔していました。
同じ調査で、看取りの経験者が備え不足で困ったことには「葬儀やお墓の希望」も挙がっています。お墓参りや法事の帰りなど、お墓の話が自然に出る場面を選ぶとよいでしょう。
自分の終活の話から切り出す
親に「終活をして」と頼むより、「自分もエンディングノートを書き始めた」と自分の話から入ると、親も構えずに話に乗りやすくなります。親子で同じノートを書いて見せ合えば、お互いの希望や連絡先を確かめる機会にもなるでしょう。親が話したがらないときは無理に進めず、お墓や葬儀の希望など一つのテーマから少しずつ聞いていきましょう。
終活の時期についてよくある質問
早く始めすぎる心配や、40代・80代から始める場合など、時期についてよく出る疑問をまとめました。
早く始めすぎるデメリットはありますか
大きなデメリットはありませんが、財産や家族の状況が変わるたびに見直す手間はかかります。遺言もエンディングノートも書き直せるので、節目ごとに見直す前提で始めましょう。生前にお墓の区画の使用権を取得すると、使う前から管理料がかかる場合もあるため、契約前に確かめておくと安心です。
40代から始めても早すぎませんか
早すぎることはありません。40代は親の介護が視野に入る時期なので、親の終活を手伝いながら、自分の口座や保険の一覧も作っておくと役立ちます。
80代からでも間に合いますか
間に合います。判断力があるうちなら、遺言を作ることも、任意後見契約を結ぶこともできるからです。体力に合わせて家族や専門家の力を借り、お墓や財産など家族が困りやすいことから優先して進めましょう。
終活は何から始めればよいですか
まずはエンディングノートに、家族の連絡先、預金や保険の一覧、葬儀やお墓の希望を書き出すことから始めましょう。やることの全体像は「終活とは?やることリスト7項目と始め方」で一覧にしています。
まとめ
終活に年齢の決まりはなく、判断力と体力があるうちが始めどきです。目安は、認知症や介護の割合が大きく上がる75歳より前、70代前半までに、遺言やお墓の継ぎ手など判断が要ることを書面にしておくことです。
まずは今週中に、エンディングノートへ家族の連絡先と口座の一覧を書き出してみましょう。片付けを業者に頼むときの選び方は、次の記事で確かめられます。
遺品整理は業者による料金差・サービス差が大きい分野です。悪質業者を避けるための7つの基準を、チェックリスト付きで解説しています。