「実家の墓じまいを考えているけれど、費用は長男の自分が全部払うものなのだろうか」。弟や妹に分担を頼んでよいのか、親の遺産から出してよいのか、言い出し方ひとつで関係がこじれないかと気がかりは尽きないものです。総額がいくらになるのか見当がつかず、話を切り出せずにいる方もいるでしょう。
そこで本記事では、墓じまい費用を誰が払うかについての法律の考え方と、よくある4つの分け方を順に示します。それぞれが向いている家庭と注意点を比べられるので、自分の家に合う分担案を描く手がかりになるはずです。
あわせて、揉めずに決める進め方や書面に残す項目、遺産から払うときの注意、払えないときの手立ても同じ流れで解説します。
墓じまい費用は誰が払うのか|法律の決まり
墓じまいの費用を誰が払うかを定めた法律はなく、家族の話し合いで決めてかまいません。お墓の管理費や法要の費用は原則として継ぐ人の負担と説明されており、話がまとまらないときは、この考え方にならって継ぐ人が中心になると考えるのが一つの目安です。
費用の負担者を定めた法律はない
民法にはお墓を受け継ぐ人の決め方はありますが、墓じまいの費用を誰がいくら払うかを定めた規定はありません。そのため、きょうだいで分ける、親の遺産から出すなど、家族が納得できる形を選んでかまいません。
合意がないときの考え方は、専門家の説明が参考です。弁護士の大谷郁夫氏と鷲尾誠氏は2020年の解説で、墓地の管理や法要などの費用は原則としてお墓を継ぐ人の負担になると説明しています。行政書士の大塚博幸氏も2026年の解説で、維持管理費は継ぐ人の負担と考えられるが法律の義務ではないと述べています。
墓じまい費用を直接対象にした法律の規定はないため、「話し合いで自由に決めてよいが、決まらなければ継ぐ人が中心になる」と理解しておくと、家族で話すときの出発点です。
お墓を継ぐ祭祀承継者が中心になりやすい
お墓を受け継ぐ人は一般に祭祀承継者と呼ばれ、民法の条文では「祖先の祭祀を主宰すべき者」と書かれています。民法第897条は、故人の指定があればその人、なければ慣習に従って決まり、慣習も分からなければ家庭裁判所が決めると定めています。
墓じまいの手続きはお墓の名義人が進めるのが基本で、名義人の承諾書があれば他の家族による申請も可能です。お墓を継いだ人が名義人になっていれば、その人が中心です。葬儀費用をめぐる裁判では、故人の契約も親族の合意もない場合に、遺骨の埋葬などにかかる費用は祭祀承継者が負担するとした、2012年の名古屋高等裁判所の判決もあります。
墓じまい費用そのものを判断した裁判ではありませんが、継ぐ人が中心になって段取りと費用の話を切り出すのが自然な流れといえます。
長男が継いで払うという決まりはない
「長男が継いで、長男が払う」という決まりは法律にありません。民法第897条の条文に長男という言葉はなく、家庭裁判所が継ぐ人を決めるときも、故人との関係や生活の状況、親しさ、祭祀を行う意思などを総合して判断すると弁護士の大谷氏らは説明しています。
実際には、家の慣習で長男が継ぐことも多いと司法書士の加陽麻里布氏は指摘します。ただし誰が継ぐかと、費用を誰が出すかは別の話です。長男が継ぐ家でも、費用はきょうだいで分けると決めてかまいません。
墓じまい費用の分け方|よくある4つの形
墓じまい費用の分け方は、お墓を継ぐ人が全額を払う、きょうだいで折半する、親族で出し合う、親の遺産や生前の備えから払う、の4つが代表的です。墓じまい代行業者の株式会社フーフーが2026年6月に経験者100人へ行ったインターネット調査では、きょうだいや親族で分けた人が合わせて6割でした。
お墓を継ぐ人が全額を払う形
同じ調査で「自分が全額負担した」、つまり回答者本人が全額を払った人は16%でした。4つの形の向き不向きを比べると次のとおりです。
| 分け方 | 向いている家庭 | 注意点 |
|---|---|---|
| 継ぐ人が全額 | 継ぐ人に資金の余裕がある | 不公平感が残りやすい |
| きょうだいで折半 | きょうだいの事情が近い | 収入の差があると重い |
| 親族で出し合う | 親族も長く墓参りしてきた | 取りまとめ役が要る |
| 遺産・生前の備え | 親の蓄えや遺産がある | 遺産なら相続人全員の合意 |
継ぐ人が全額を払う形は、決める人と払う人が同じなので話が早く進みます。新しい納骨先に継ぐ人の家族だけが入る予定なら、筋の通りやすい分け方です。ただし他のきょうだいが何も負担しないと、後から「勝手に決めた」と言われないよう、決める前に相談しておくことが欠かせません。
きょうだいで折半する形
同じ調査で最も多かったのは「兄弟や姉妹で折半した」の32%です。
均等に割る形は分かりやすい反面、収入や暮らし向きに差があると負担の重さが変わります。年金暮らしの人や子育て中の人がいるなら、出せる額に応じて割合を変える方法もあります。
大切なのは、割合そのものより全員が納得していることです。均等が難しいときは、次の章で紹介する「お金以外の役割」も合わせて考えると折り合いがつきやすくなります。
親族みんなで出し合う形
「親族で出し合った」は28%で、きょうだいだけでなく、おじやおば、いとこが加わる形です。同じお墓に親や祖父母の遺骨が納められ、親族も長く墓参りしてきた家で選ばれやすい分け方といえます。
関わる人が増えるほど、取りまとめ役と連絡の手間が増えます。金額を決めて頼むより、総額と内訳を示したうえで「出せる範囲で協力してほしい」と伝えるほうが、関係を保ちやすくなるはずです。
親の遺産や生前の備えから払う形
「親の遺産から支払った」は23%でした。親が元気なうちなら、親自身の蓄えで墓じまいを済ませておく方法もあり、子どもに負担を残さない形として考えられます。
親が亡くなった後に遺産から出す場合は、相続人全員の合意が前提です。何にいくら使ったかの領収書と記録を残しておくと、後の遺産の分け方で揉めにくくなります。相続放棄を考えている人がいる場合の注意点は、後の章で紹介します。
家族で揉めずに分担を決める進め方
分担を揉めずに決めるには、費用を「今のお墓を片付ける費用」と「新しい納骨先の費用」に分け、見積もりを全員で見てから話し合うのが近道です。お金以外の役割も負担に数え、決めたことは書面に残しておくと、後から食い違いが起きにくくなります。
費用を片付け代と納骨先代に分けて考える
墓じまいの費用は、今のお墓を片付ける費用と、遺骨を移す新しい納骨先の費用に分かれます。鎌倉新書「いいお墓」の2025年12月8日付の記事の目安は次のとおりです。
| 項目 | 一般的な目安 |
|---|---|
| 墓石の撤去 | 10万〜30万円 |
| 閉眼供養のお布施 | 3万〜10万円 |
| 離檀料 | 3万〜20万円 |
| 行政手続き | 数百円〜1,000円 |
| 新しい納骨先 | 30万〜100万円 |
このほか、遺骨の取り出しや運搬の費用もかかります。
片付ける費用は家全体のこととして皆で分け、新しい納骨先の費用はそこを今後使う人が多めに持つ、という考え方もあります。たとえば継ぐ人の夫婦も同じ納骨先に入る予定なら、その分を継ぐ人が多めに負担すると納得を得やすいでしょう。
総額の詳しい相場は墓じまいの費用相場はいくら?総額の内訳と安く抑える方法を解説で紹介しています。
見積もりを全員で見てから話し合う
費用の話は、具体的な金額がそろってから始めるのが近道です。石材店の見積もりと新しい納骨先の料金表を用意し、内訳を家族全員で見られるようにしておきましょう。
墓地やお寺によっては工事できる石材店が決まっていることがあるため、まず管理者に確かめ、選べる場合は複数の石材店から見積もりを取ります。前出の株式会社フーフーが2026年5月に墓じまいの経験者100人へ行った別のインターネット調査では、補助金以外で費用を抑えるために行ったことを複数回答で聞くと、「複数の石材店から相見積もり」を挙げた人が38人、「親族間で費用を分担できるよう相談する」が40人いました。
金額の前に、墓じまいを考える理由も共有しておきます。遠くて通えない、継ぐ人がいないといった事情が伝われば、負担の話も「みんなの問題」として受け止めてもらいやすくなるでしょう。
お金以外の役割も負担に数える
墓じまいの負担は、お金だけではありません。役所での改葬許可の申請、お寺や霊園との相談、撤去工事や納骨の日の立ち会い、遺骨の運搬など、手間のかかる役割がいくつもあります。
お墓の近くに住むきょうだいが手続きや立ち会いを引き受け、遠方に住むきょうだいが費用を多めに出すといった分け方なら、それぞれの事情に合った形で負担をそろえられるでしょう。
役割を書き出してから金額を決めると、「自分ばかりが大変だ」という不満を防ぎやすくなります。お金を出しにくい人にとっても、協力の形を選べることが気持ちの負担を軽くするはずです。
決めたことを書面に残しておく
決めた分担は、簡単なものでよいので書面に残しておきましょう。民法では約束は口頭でも成り立ちますが、時間がたつと「言った、言わない」になりやすいからです。お墓の維持管理費を分担する場合について、行政書士の大塚博幸氏は期間や支払い方法を最初に決めておくよう勧めています。
| 書面に書く項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 総額と内訳 | 見積もりの金額 |
| 各自の負担額 | 名前ごとの金額 |
| 支払いの時期と方法 | 振込先と期限 |
| 追加費用が出たとき | 同じ割合で分ける等 |
| 新しい納骨先 | 施設名と今後の管理 |
| お墓を継ぐ人 | 祭祀承継者の名前 |
表の項目は話し合いを整理するための例で、法律で決まった書式ではありません。全員が署名して1部ずつ持っておくと、後で確かめたいときに役立ちます。
墓じまいの費用相場や自治体の補助金は、地域によって大きく変わります。当サイトでは市区町村別に、墓じまいの平均費用と最新の補助金情報をまとめています。
業者選びに迷ったら:墓じまい代行サービスの選び方
遺産から払うときの注意と相続税
親の遺産から墓じまい費用を出すときは、相続人全員の合意と記録が前提で、相続放棄を考えている人は遺産に手をつける前に専門家へ確かめます。お墓を継いでも遺産が自動的に増えるわけではなく、墓じまい費用は原則として相続税の計算で差し引けません。
相続放棄を考えるなら遺産に手をつけない
借金などを理由に相続放棄を考えている人は、遺産から墓じまい費用を払う前に専門家へ相談しましょう。民法第921条は、相続人が遺産を処分すると、すべてを受け継ぐ単純承認をしたとみなすと定めているためです。
仏壇や墓石を用意するのに故人の貯金を使った事例で、2002年の大阪高等裁判所の決定は、金額が社会的にみて高すぎるとはいえないことなどから、明白に相続財産の処分に当たるとは断定できないとして相続放棄を認めました。金額が高すぎれば処分に当たりうるとする専門家の解説もあります。ただし墓じまい費用は、仏壇や墓石の購入とは性質が違うため、同じ扱いになるとは言い切れません。
相続放棄は、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所へ申述します。期限内に決められないときは、期間の延長を申し立てることもできます。遺産から払ってよいかの判断は、期限内に弁護士や司法書士へ確かめましょう。
相続放棄の手続きの進め方は、家庭裁判所の家事手続案内でも教えてもらえます。
お墓を継いでも遺産が増えるとは限らない
お墓を継ぐからといって、遺産を多くもらえるとは限りません。弁護士の大谷氏らは、祭祀の承継は遺産分割と別の制度で、他の相続人の合意がない限り、遺産を分けるときに有利な扱いは受けられないと説明しています。逆に、お墓を継いだことで遺産の取り分を減らされることもありません。
家族全員が納得すれば、墓じまい費用の分を先に遺産から差し引いてから残りを分ける、継ぐ人に多めに渡す、といった調整はできます。その場合は、遺産分割協議書に祭祀を継ぐ人と費用の扱いを書いておくと後の誤解を防ぎやすくなります。
墓じまい費用は原則として相続税で差し引けない
墓じまいの費用は、原則として相続税の計算で差し引けません。税理士の古尾谷裕昭氏は、相続のあとに相続人の判断で行う墓じまいの費用は、亡くなった時点にあった借金でも葬式費用でもないため対象にならないと解説しています。
国税庁の説明は墓じまい費用に直接触れていませんが、葬式費用に含まれないものとして「墓石や墓地の買入れのためにかかった費用」や法事の費用を挙げています。日常のお参りに使う墓地や墓石、仏壇などは、原則として相続税がかからない財産です。相続税の申告が必要な家庭は、税理士に確かめましょう。
費用が払えない・話がまとまらないとき
費用が払えないときは、見積もりと新しい納骨先を見直して総額を下げ、補助金やローンを使えるかを確かめます。家族の話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の調停など第三者の場を使う方法もあります。
見積もりと納骨先の見直しで費用を下げる
金額が大きく、見積もりで差が出やすいのは、墓石の撤去と新しい納骨先です。株式会社フーフーの2026年6月の調査では、今のお墓を片付ける費用のうち最も費用がかかった項目として、墓石の処分費用を挙げた人が100人中76人いました。
撤去は、工事できる石材店の決まりがないかを先に確かめ、選べるなら複数の見積もりで比べます。新しい納骨先は合祀型の永代供養墓や公営の合葬墓も候補に入れると、総額が変わることがあります。合祀型は他の人の遺骨と一緒に納める形で、一度合祀した遺骨は取り出せない点を家族で確かめてから選びましょう。
払えないときの対処は墓じまいの費用が払えない時の対処法|安く抑える方法と相談先で詳しく紹介しています。
補助金やローンを使える場合もある
2026年10月時点で、墓じまいの補助金には、市川市や浦安市のように公営墓地の区画を返す人へ原状回復の費用などを助成するものが見られます。予算に達すると受付を終えることがあり、市川市は2026年5月にいったん終了し、9月に再開しました。横浜市のように補助金制度はないと案内している自治体もあり、株式会社フーフーの2026年5月の調査では補助金を利用した人は100人中2人でした。
お墓や葬儀など供養の目的で使えるメモリアルローンを扱う金融機関や石材店もあります。使える費用や金利、条件は商品ごとに違うため、墓石の撤去やお寺へのお礼まで対象になるかを申込先で確かめましょう。国民生活センターが2022年に紹介した相談例には、高額な離檀料を求められ、払えないと言うとローンを勧められたものもあるため、金額に納得できないまま借りないことが大切です。
自治体ごとの補助金は墓じまいの補助金はいくら?対象の自治体と申請方法・注意点を解説にまとめています。
家庭裁判所の調停や公的な相談窓口
家族だけで話がまとまらないときは、第三者に入ってもらう場があります。内容ごとの主な窓口は次のとおりです。
- どの手続きを使えばよいか:家庭裁判所の家事手続案内
- 親族の関係がこじれた:家庭裁判所の親族関係調整調停
- 誰がお墓を継ぐかで決まらない:家庭裁判所の調停・審判
- 遺産の分け方がまとまらない:家庭裁判所の遺産分割調停
- 費用が心配で弁護士に相談しにくい:条件を満たせば法テラスで無料相談
- 離檀料や見積もり:お寺などと話しても納得できなければ188
祭祀承継者の指定の調停や審判で決めるのは誰がお墓を継ぐかで、費用の分担を命じる手続きではありません。親族関係調整調停は、感情の対立などで関係が円満でなくなったときに話し合いの場として使え、申し立ての費用は収入印紙1,200円分と郵便切手です。
墓じまい費用の負担でよくある質問
立場ごとに迷いやすい、きょうだいの負担、相続放棄とお墓、お墓を継ぐ役目の3つについて答えます。
弟や妹に費用を払う義務はありますか
法律で弟や妹に墓じまい費用を払わせる決まりはありません。分担に合意していない弟や妹に、無理に払わせることはできません。いったん合意した分担は約束として扱われうるため、書面に残しておくと安心です。出せる範囲の金額や、手続きなどお金以外の協力、総額を下げる方法を一緒に探すのが現実的です。
相続放棄をしてもお墓は継げますか
継げます。民法第897条はお墓の承継を相続とは別のルールで定めているため、相続放棄をした人でも祭祀承継者になることは可能です。逆に、相続放棄をしてもお墓の問題がなくなるわけではないと司法書士の加陽氏は指摘しています。
お墓を継ぐ役目は断れますか
原則として断れないというのが一般的な考え方です。祭祀承継には相続のような放棄の定めがないためだと弁護士の大谷氏らは説明しています。ただし法要などを行う法的な義務はなく、墓じまいを選ぶことも可能です。新しい祭祀承継者の指定を求めることはでき、認められれば役目を引き継いでもらえます。
まとめ
墓じまい費用を誰が払うかを定めた法律はなく、家族の話し合いで決めてかまいません。まとまらないときはお墓を継ぐ人が中心になるのが一つの目安ですが、実際にはきょうだいや親族で分けたり、親の遺産から出したりする家庭も多く見られます。
まずは見積もりを取り、費用を片付け代と納骨先代に分けて家族全員で見てみましょう。決めた分担は書面に残しておくと安心です。新しい納骨先は、霊園・供養先の検索から探せます。
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