「遠くの実家のお墓を近くへ移したいけれど、お墓を移すのはよくないと聞いて手が止まった」。ご先祖様の眠りを妨げるのではないか、移したあとに家族に何か起きたらと考えると、気持ちが重くなる方もいるでしょう。親や親族から「バチが当たる」と言われ、どう答えればいいか迷うこともあります。
そこで本記事では、お墓を移すことを法律や宗派がどう考えているかと、「よくない」と言われる理由を順に整理します。不安の正体が見えれば、必要以上に怖がらずに、移すかどうかを家族で落ち着いて考えられるはずです。
あわせて、宗派ごとの儀式の違いや日取り・風水の考え方、移したあとに不安が続くときの向き合い方も同じ流れで解説します。
お墓を移すのはよくない?法律と宗派の考え方
お墓を移すこと自体をよくないこととして禁じる決まりは、法律にはありません。改葬は法律で手続きが定められた「お墓の引っ越し」で、日蓮宗や浄土宗などの公式案内も「移すな」ではなく「まず菩提寺や家族と相談を」と呼びかけています。
お墓の引っ越しは法律で手続きが決まった方法
お墓に納めた遺骨を別のお墓や納骨堂へ移すことを改葬といい、「墓地、埋葬等に関する法律」で手続きが定められた方法です。今お墓がある市区町村の許可を受ければ、遺骨を新しい場所へ移せます。
お墓を移すことについて法律が罰則を設けているのは、許可を受けずに遺骨を移した場合です。法律の目的にも、埋葬などが「国民の宗教的感情に適合」するように行われることが掲げられており、宗教的な気持ちへの配慮を前提にした仕組みといえます。
改葬の件数は2024年度に176,140件で、2014年度の83,574件の約2.1倍に増えました(厚生労働省「衛生行政報告例」)。手続きの流れは改葬とは?費用相場と手続きの流れ・墓じまいとの違いを解説で紹介しています。
宗派の公式案内は「まず菩提寺に相談」
公式サイトでお墓の移転に答えている宗派の案内は、移すことを禁じるのではなく、進め方と相談の大切さを説くものです。日蓮宗は、故郷から遠く離れて暮らしているので近くにお墓を移したいという質問に、法律に基づく改葬の手続きを案内しています。
浄土宗は、お墓の移転は不可能ではないとしたうえで、決めてから伝えるのではなく、はじめに菩提寺に事情を話して相談するよう勧めています。故郷を離れて暮らし、遠くに菩提寺やお墓がある人の相談への曹洞宗の答えも「まず、お寺と相談を」です。
伝統仏教の宗派や団体でつくる全日本仏教会は、改葬を「お墓の引っ越し」と説明し、菩提寺や家族・親戚と十分に話し合える関係が一番大切だとしています。ここに挙げた宗派や団体に共通するのは、移すかどうかの良し悪しより、先に相談することの勧めです。
仏教学者は「宗教的な縛りはないはず」と説明
仏教学者の佐々木閑さん(花園大学特別教授)は、国民生活センターの「国民生活」2025年12月号で、お墓を移すときに霊を抜き、新しい場所で霊を入れれば新たなお墓になるとして、「場所を移すことに関しては宗教的な縛りはないはず」と述べています。
お寺とのつながりがなくなると将来不幸になるという考え方も、仏教には本来ない、というのが同じ記事での説明です。一方で、日本人は心情的に骨を移すことに抵抗がある、とも指摘しています。
宗派の公式見解ではなく一人の研究者の見方ですが、宗教の決まりとして移すことが禁じられているわけではない、と考える手がかりになります。それでも不安を感じるのは自然なことなので、その理由を次の章で整理していきましょう。
お墓を移すのはよくないと言われる理由
「よくない」と言われる背景には、先祖のお墓を守りたい気持ち、遺骨を動かすことへの抵抗、実際にあったもめごと、偶然の出来事を結びつける心の動きがあります。どれも頭ごなしに否定するものではなく、理由ごとに向き合い方が変わります。
先祖代々のお墓を守りたいという気持ち
家のお墓を代々守ることは、多くの家で大切にされてきた価値観です。日蓮宗の公式Q&Aも、お墓や仏壇を「家族の心の柱」と表しています。
鎌倉新書が2026年1月に「いいお墓」の利用者733人へ行ったインターネット調査では、墓じまいを検討したもののやめた90人のうち11.1%が、「先祖にうしろめたい気持ちになった」ことを理由に挙げました。
一方、歴史学・民俗学の岩田重則さん(中央大学教授)は、「先祖代々の墓」が広まったのは明治以降だと説明しています。お墓のかたちは時代とともに変わってきたもので、守りたい気持ちも、暮らしに合わせて移したい気持ちも、先祖を大切にする思いから出たものです。
遺骨を動かすことへの心の抵抗
「眠っている遺骨を動かすのは申し訳ない」と感じるのは、自然な心の動きです。佐々木閑さんも、インド仏教には一般の人の骨を祀る墓はなかった一方、日本人は心情的に骨を移すことに抵抗があると述べています。
宗派によっては、亡くなった方がお墓の中にいるとは受けとめません。浄土真宗本願寺派の公式サイトは、亡き人はお墓の中にいるのではなく、浄土に生まれて仏さまになっていると説明しています。
日蓮宗は、移す前に法要を営むよう案内している宗派の一つです。儀式を、家族で気持ちの区切りをつける機会と考える方法もあります。
親族やお寺とのもめごとが伝わること
「お墓を移したら大変だった」という話の中には、親族の反対やお寺とのお金のもめごとなど、実際のトラブルも混ざっているものです。国民生活センターには、遠方の寺院から近くの霊園へ両親の遺骨を移したいのに、高額な離檀料を求められて進まないという相談が寄せられています。
墓じまい代行のSora Capitalが2026年9月に経験者100人へ行ったネット調査では、実際に大変だったこととして「親族との話し合い・調整に苦労した/関係が悪くなった」が24.0%でした。
終活コンサルタントの吉川美津子さんも2024年の取材記事で、親族間のトラブルで多いのは合意を得ずに墓じまいをしたケースだと指摘しています。親族とのもめごとを防ぐには、決める前に誰に話すかを考えておくことが第一歩です。
たまたま重なった出来事を結びつけやすい
移したあとに病気やけがが続くと、「お墓を移したせいでは」と感じてしまうことがあります。民俗学者の井之口章次は『日本大百科全書』の「迷信」の項で、言い伝えの多くは出来事のつながりを直観や連想に頼って説明したところから生まれたと書いています。
人には、いったん信じたことに合う出来事ばかりを重く見てしまう傾向もあり、心理学でいう確証バイアスです。気になっていることがあるほど、それに合う出来事が目に入りやすくなるわけです。
同じ項目は、信仰は科学で正しいかどうかを決めるものではないとも述べています。言い伝えを笑い飛ばすのでも怖がるのでもなく、心の動きとして知っておくと、不安と少し距離をとれるはずです。
宗派・宗教による移すときの儀式の違い
移すときの儀式は改葬許可の条件ではありませんが、宗派や宗教ごとに区切りのつけ方があります。呼び方や考え方が違うため、菩提寺や神社に先に確かめておくと安心です。
仏式では移す前後に法要で区切りをつける
仏式では、お墓を片づける前に僧侶に読経してもらう閉眼供養を営み、新しいお墓で開眼供養や納骨の法要を行うことがあります。総務省の資料も、宗教や宗派によって閉眼供養や開眼供養などの儀式が必要になる場合があると注記しています。
| 宗教・宗派 | 移す前 | 移したあと |
|---|---|---|
| 日蓮宗などの仏式 | 閉眼供養 | 開眼供養・納骨の法要 |
| 浄土真宗 | 墓前での法要 | 納骨のお勤め |
| 神道 | 神社でのお祓い | 奥津城での祭儀 |
閉眼供養は魂抜きや御霊抜きとも呼ばれ、呼び名はお寺によってさまざまです。法律上の義務ではありませんが、お布施の目安や当日の流れは閉眼供養とは?墓じまいのお布施の目安と服装・宗派による違いで紹介しています。
浄土真宗は魂を抜く・入れるとは考えない
浄土真宗では、お墓に魂を入れたり抜いたりするという受けとめをしません。浄土真宗本願寺派の公式サイトは、お墓が完成したときの法要を建碑式と呼び、「お性根入れとは申しません」と説明しています。
それでも、何もせずにお墓を片づけるわけではありません。広島市にある本願寺派の品龍寺は、墓じまいの前に墓前で法要を営み、お墓を移すときの法要を遷仏法要と呼ぶと紹介しています。
真宗大谷派も、お墓は亡くなった方にお願いごとをする場ではなく、亡き人を偲びながら自分の生き方を考える場だとしています。どんな法要をお願いするかは、お手次ぎのお寺に相談しましょう。
神道は神社にお祓いを相談する
神道ではお墓を奥津城(おくつき)と呼び、亡くなった方は祖霊として家を見守る存在と受けとめられてきました。神社本庁も、祖霊祭で亡くなった方のみたまをまつると説明しています。
埼玉県の出雲伊波比神社のように、お墓を閉じるときの「墓所仕舞いのお祓い」を受けている神社もあります。手順は神社によって違うため、氏神さまやお付き合いのある神社に相談しましょう。
移したあとも、年祭やお盆・お彼岸の祖霊祭でみたまをまつることは続けられます。キリスト教など、ほかの宗教の家は、所属する教会などに確かめておくと安心です。
日取り・方角・風水はどこまで気にするか
仏滅や友引などの六曜も、墓相や風水も、宗教上の決まりではありません。気にするかどうかは家族の考え次第で、気にする家族がいるなら、その人が納得できる日や区画を選ぶことが家族への配慮になります。
六曜は仏教の教えとは関係がない
大安・仏滅・友引などの六曜は、中国の日や時刻の吉凶占いが由来とされ、仏教の教えとは関係がありません。真宗大谷派の公式サイトも、六曜は仏教の教えとは関係がなく、日に良し悪しはないと説明しています。
浄土真宗本願寺派や真宗大谷派は、納骨の日に決まりはないと案内しています。日蓮宗も、お墓を建てる季節に決まりはないとしたうえで、手続きや工事にかかる日数を考えて時期を選ぶよう勧める立場です。
そのため日取りは、お寺や石材店の都合、家族が集まれる日を優先して決めて差し支えありません。六曜は仏教の教えに基づくものではないため、仏滅や友引だけを理由に日をずらす必要はないでしょう。
墓相や風水は宗教上の決まりではない
墓相は、墓石の位置や方角などで吉凶を判断する考え方です。風水は、山や川の様子と陰陽の気を見て住まいや埋葬地を選ぶ術です(精選版 日本国語大辞典)。
宗派のなかには、こうした考えにとらわれないよう公式に呼びかけているところもあります。浄土真宗本願寺派は「墓相に惑わされないように」、真宗大谷派は墓相や方角、日の良し悪しにとらわれる必要はないとしています。
墓相や風水は、宗派の教えとして定められたものではありません。新しい区画の向きや墓石の形は、家族が納得できるかどうかを物差しに選ぶとよいでしょう。
気にする家族がいれば納得できる日を選ぶ
六曜が宗教上の決まりでなくても、気にする家族がいるなら、その気持ちを大切にして日を選ぶのも一つの方法です。佐賀県鳥栖市が2019年9月に市民2,000人へ郵送で行った意識調査(回答677人)では、「大安に結婚式」「友引に葬式をしない」といった風習を「当然のことだと思う」人が27.5%いました。
同じ調査で「おかしいと思うが、自分だけ反対しても仕方がない」と答えた人は29.1%でした。1つの市の調査ですが、気にしない人も、周りに合わせる人もいることがうかがえます。
家族で話し合い、法要をお願いするお寺や工事をする石材店の都合とあわせて日を決めれば、気持ちよく当日を迎えやすくなります。
気持ちよくお墓を移すために家族と決めること
移すことへの不安を小さくするには、なぜ移すのかと、移したあとどうお参りを続けるのかを家族で共有し、菩提寺や今の墓地に早めに相談することが大切です。移すか残すかの二択にせず、分骨などの方法も含めて考えると、家族の納得を得やすくなります。
移したい理由とお参りの続け方を伝える
家族や親族には、決めたことを報告するのではなく、移したい理由と移したあとのお参りの続け方を伝えて相談する形をとりましょう。CFPの新井智美さんも2026年4月の解説記事で、親族には一方的な報告ではなく相談の形で共有することを勧めています。
全日本仏教会と大和証券が2022年12月に全国の20〜79歳へ行ったインターネット調査では、お墓を移したい人・移した人730人の理由は「将来、家族の負担を軽減するため」48.0%、「住んでいる場所から遠い」47.5%が上位でした。
一般社団法人終活協議会が2026年6月に終活ガイド資格の取得者860人へ行ったネット調査では、家族にお墓の話を切り出せていないと感じる人が25.0%いました。話しにくさを感じるのは珍しいことではないので、まずは理由を言葉にするところから始めましょう。
菩提寺や今の墓地には決める前に相談する
お寺にあるお墓なら、移すと決めてから伝えるのではなく、決める前に菩提寺に事情を話して相談しましょう。先に相談しておくと、法要の日取りや遺骨の取り出し方も一緒に決めやすいはずです。
全日本墓園協会の横田睦さんは「国民生活」2025年12月号で、お寺との関係を考えずに改葬すると、檀家として残る親族が難しい立場に置かれることもあると述べています。そのうえで、なるべく多くの親族や身内と相談するよう勧めています。
公営霊園や民営霊園なら、区画を返す手順の確認先は管理事務所です。手続きの全体は墓じまいの手続きと必要書類|どこに何を出すかを順番に解説で紹介しています。
分骨や管理を託すなど移す以外の方法もある
全部を移すか残すかで迷うときは、その間の方法を考えるのも手です。浄土宗は、移転がよいか分骨がよいかも含めて十分に話し合うよう勧めており、浄土真宗本願寺派は分骨がいけない理由はどこにもないと説明しています。
横田睦さんは、お墓の近くで暮らす親族に管理を託す、お寺の住職に託すといった、墓じまいだけではない方法も挙げています。急いで決めずに、家族で話す時間をとるのも一つの選択です。
移す先に合祀の永代供養墓を選ぶ場合は、一度合祀した遺骨はあとから取り出せません。家族全員が納得してから決めましょう。
当サイトでは全国7,000件以上の霊園・墓地・永代供養・樹木葬・納骨堂の情報を、都道府県・市区町村別に掲載しています。費用の目安やアクセスから比較できます。
墓じまいを検討中の方:地域別の墓じまい費用・補助金
お墓を移したあとに不安が続くときの向き合い方
移したあとに気持ちが揺れるのは、珍しいことではありません。墓じまいの経験者100人に聞いた調査では前向きに受けとめた人が多数で、不安が続くときは新しいお墓でのお参りや法要で気持ちを整えられます。不安につけこむ高額な勧誘には注意しましょう。
経験者100人の調査では前向きな声が多い
墓じまい代行のSora Capitalが2026年9月に経験者100人へ行ったネット調査では、「やってよかった」と「どちらかといえばやってよかった」が合わせて84.0%でした。「どちらかといえばやらなければよかった」は1.0%、「やらなければよかった」は0%です。
調査したのは代行の会社で、人数も多くはないため、数字は目安として受けとめましょう。幻冬舎ゴールドオンラインが2025年8月に紹介した仮名の事例では、墓石がなくなった墓地跡を見て心が重くなった一方、息子に負担を残さずに済むと気持ちが軽くなった面もあったといいます。
安心と心残りが同時にあるのは自然なことです。どちらの気持ちも否定せず、時間をかけて整えていけば十分です。
新しいお墓でのお参りや法要で気持ちを整える
不安や寂しさが続くときは、近くなったお墓にお参りすることが気持ちの支えになります。日蓮宗の公式Q&Aも、お墓参りは行けるときに行く心構えが大切だとしています。
新しい納骨先で納骨の法要をお願いする、命日やお彼岸に家族で手を合わせるなど、節目をつくるのも一つの方法です。神道の家なら、年祭やお盆・お彼岸の祖霊祭でみたまをまつることを続けられます。
気になることがあれば、菩提寺や新しい納骨先のお寺に話を聞いてもらうのもよいでしょう。宗教とどう付き合うかは一人一人の感じ方による、と佐々木閑さんも述べています。
不安をあおる高額な勧誘はその場で断る
「先祖のたたりで不幸になる」などと不安をあおり、高額な品物を勧める手口には注意が必要です。広島市の消費生活センターは、訪問者にそう言われて高額な壺や数珠を買ってしまった事例を挙げ、注意を呼びかけています。
霊感などを持ち出して不安をあおり、結ばせた契約は、消費者契約法で取り消せる場合があります。その場で契約や支払いをせず、家族や消費者ホットライン「188」に相談しましょう。
お寺や神社に正式にお願いする法要やお祓いとは、まったく別の話です。勧誘の相手が誰なのかを落ち着いて確かめれば、必要な儀式まで疑う心配はありません。
まとめ
お墓を移すことを禁じる決まりは法律になく、主な宗派の公式案内も先に相談するよう勧めています。「よくない」と言われる背景には先祖を思う気持ちや親族とのもめごとがあり、儀式や家族の納得を大切にすれば気持ちよく移せます。
まずは移したい理由とお参りの続け方を家族に話し、菩提寺や今の墓地に相談しましょう。地域ごとの墓じまい費用や補助金は下のページで確かめられます。
墓じまいの費用相場や自治体の補助金は、地域によって大きく変わります。当サイトでは市区町村別に、墓じまいの平均費用と最新の補助金情報をまとめています。
業者選びに迷ったら:墓じまい代行サービスの選び方